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インプラントは虫歯になりません。ここまではよく知られています。しかし、インプラントを失う原因の多くは虫歯ではなく、支えている周囲の組織に起きる炎症です。これをインプラント周囲炎といいます。
やっかいなのは、痛みという形でサインが出にくいことです。「調子がいいから」と通院が空いてしまい、数年後にぐらつきで来院される。インプラント治療でもっとも避けたいのが、この経過です。
この記事では、インプラント周囲炎がどういう状態なのか、なぜ気づきにくいのか、そして日々のケアと定期メンテナンスで何をすれば防げるのかを、京都・聖護院でインプラント治療を担当している立場からご説明します。
この記事のポイント
- インプラントを失う主な原因は、虫歯ではなくインプラント周囲炎です
- 天然の歯と違って痛みが出にくく、気づいたときには骨の吸収が進んでいることがあります
- 防ぐ習慣は3つ。毎日の清掃、半年に一度のメンテナンス、喫煙と噛み合わせへの対処
- 当院の定期メンテナンスは半年に一度(年2回)、保険診療の範囲で行います
- 20年ロング保証も、半年に一度のメンテナンス受診が条件です
インプラント周囲炎とは、どういう状態か
インプラントを支えている歯ぐきと骨に、細菌による炎症が起きた状態です。進み方によって2段階に分けられます。
| 段階 | 状態 | 対応 |
|---|---|---|
| インプラント周囲粘膜炎 | 炎症が歯ぐきの表層にとどまっている。腫れ・出血が出ることがある | 清掃指導とクリーニングで改善が見込めます |
| インプラント周囲炎 | 炎症が骨にまで及び、支えている骨が溶けはじめる | 進行すると動揺・脱落につながります |
粘膜炎の段階で見つけられれば、多くは元の状態に戻せます。一方、骨の吸収が始まってしまうと、溶けた骨が自然に元通りになることはありません。早期に見つけることが、そのまま治療の成否になります。

なぜ自覚症状が出にくいのか
天然の歯には、歯と骨のあいだに歯根膜という組織があります。噛んだ力を受け止めるクッションであると同時に、異常を痛みとして知らせるセンサーの役割も果たしています。
インプラントには、この歯根膜がありません。人工歯根は骨と直接結合しているため、炎症が起きても痛みとして伝わりにくいのです。加えて、歯周病に比べて進行が速い傾向があることも知られています。日本口腔インプラント学会も、長期に維持するうえで治療後の定期的な管理が欠かせないとしています。
つまり、ご自身の感覚に頼っていると手遅れになりやすい。だからこそ、症状がないうちに測って記録する定期メンテナンスに意味があります。
防ぐための3つの習慣
1. 毎日の清掃は「境目」を狙う
磨くべきなのは人工歯の表面ではなく、人工歯と歯ぐきが接する境目です。ここに残った細菌の塊が炎症の出発点になります。
| 道具 | 使う場所 | 頻度 |
|---|---|---|
| やわらかめの歯ブラシ | 人工歯と歯ぐきの境目に毛先を45度で当てる | 毎食後 |
| 歯間ブラシ | 隣の歯とのあいだ、人工歯の下のすき間 | 1日1回以上 |
| フロス(インプラント用) | 人工歯の周囲をぐるりと通す | 1日1回(就寝前が理想) |
| タフトブラシ | 奥のインプラント周囲、器具が届きにくい角 | 1日1回 |
器具のサイズが合っていないと、通したつもりで汚れが残ります。太さや形はメンテナンスの際に衛生士がお選びします。
2. 半年に一度のメンテナンスを続ける
当院では、治療後は半年に一度(年2回)のご来院をお願いしています。診ているのは、見た目の清潔さではありません。
- 歯ぐきの溝の深さを測り、前回と比較する
- レントゲンで骨の高さを確認する
- 人工歯根と上部構造をつなぐネジのゆるみを点検する
- 噛み合わせを確認し、特定のインプラントに力が集中していないか調べる
- ご自身では届かない部分の汚れを、専用の器具で取り除く
とくに噛み合わせは見落とされがちです。人工歯は少しずつすり減り、残っている歯も年月とともに動きます。その結果、一部のインプラントにだけ強い力がかかることがあります。骨の吸収は、清掃不良だけでなく、この力の偏りからも起こります。

3. 喫煙と噛み合わせの力に対処する
喫煙は歯ぐきの血流を悪くし、炎症が起きても気づきにくく、治りにくい状態をつくります。治療後も本数を減らす、可能であればやめることをお勧めしています。
就寝中の食いしばりや歯ぎしりがある方には、ナイトガードの使用をご提案することがあります。夜間の力は日中の噛む力より大きくなることがあり、インプラントにとっては負担になります。
こんなサインがあれば、次の予約を待たずにご相談ください
- 歯ぐきから血が出る、押すと違和感がある、腫れが引かない
- 人工歯が動く感じがする、噛むと音がする
- 噛み合わせが変わった気がする、片側だけ強く当たる
- 以前より口臭が気になるようになった
初期であれば清掃と調整で対応できることが多く、放置すると外科的な処置が必要になる場合があります。「このくらいで受診してよいのか」と迷われたときこそ、ご連絡ください。
なりやすい方の傾向と、実際の治療
すべての方に同じリスクがあるわけではありません。次に当てはまる方は、間隔を短くしてお呼びすることがあります。
- もともと歯周病があった方(インプラント周囲炎は、残っている歯の歯周病菌が関わることがあります)
- 喫煙されている方
- 糖尿病があり、血糖のコントロールが不安定な方
- 骨粗しょう症のお薬を服用されている方
- 就寝中の食いしばり・歯ぎしりが強い方
- 清掃が難しい形の被せ物が入っている方
実際に炎症が見つかった場合の対応は、段階によって変わります。歯ぐきの表層にとどまっていれば、専用の器具で汚れを除去し、清掃方法を見直したうえで経過を追います。骨の吸収が進んでいる場合は、歯ぐきを開いて感染した組織を取り除く処置が必要になることがあり、状態によっては骨を補う処置を併用します。動揺が大きく、支える骨がほとんど失われている場合は、いったん取り出して治癒を待ち、あらためて埋入する判断になります。
いずれの段階でも共通しているのは、早い段階ほど、体への負担も費用も小さく済むということです。骨が溶けてからでは、元に戻すために外科的な処置が必要になります。
費用・期間・リスクについて(自由診療)
インプラント治療に関する費用・期間・通院回数・リスク
- 自由診療である旨:インプラントは公的医療保険が適用されない自由診療です(治療後の定期メンテナンスは保険診療の範囲で行います)
- 治療内容:顎の骨に人工歯根を埋入し、結合を待って人工歯を装着します。治療後は定期メンテナンスで状態を管理します
- 標準的な費用:当院では1本44万円(税込)です。精密検査・診断、人工歯根、手術、アバットメント、上部構造を含みます。前歯など審美領域は50万円台、骨造成などの追加処置が必要な場合は別途費用がかかります
- 治療期間・通院回数の目安:診査・診断から人工歯の装着まで、おおむね3〜5か月。通院は5〜7回程度です
- 治療後の通院:半年に一度(年2回)の定期メンテナンス。保険診療の範囲で行い、3割負担の方で1回あたり数千円程度です
- 保証:10年以内は100%保証(再手術・代替治療の費用はいただきません)、11年目以降は30%の部分保証となり、合わせて20年ロング保証です。半年に一度のメンテナンスの受診が条件です
- 主なリスク・副作用:手術後の痛み・腫れ・内出血、細菌感染、インプラントが骨と結合しない場合があること、噛み合わせの不調、インプラント周囲炎による動揺や脱落、人工歯の破損。糖尿病などの全身疾患や喫煙は治癒に影響することがあります
オールオン4をお使いの方向けのお手入れはオールオン4のメンテナンス、持病がある方の注意点はインプラントは何歳まで?持病があってもできる?でご説明しています。
よくある質問
Q. インプラント周囲炎になったら、インプラントは必ず外すことになりますか?
A. 段階によります。歯ぐきの表層にとどまる粘膜炎であれば、清掃指導とクリーニングで改善が見込めます。骨の吸収が進み動揺している場合は、外して治癒を待ち、あらためて埋入する判断になることがあります。
Q. メンテナンスは半年に一度で足りますか?
A. 当院は半年に一度(年2回)を基本にしています。お口の状態や清掃の状況によっては、間隔を短くしてご案内することがあります。
Q. メンテナンスの費用はいくらですか?
A. 定期的な診査とクリーニングは保険診療の範囲で行っており、3割負担の方で1回あたり数千円程度です。お口の状態や検査内容によって変わります。
Q. 電動歯ブラシだけでも大丈夫ですか?
A. 電動歯ブラシはお使いいただけますが、当てるだけでは境目の汚れは落ちません。歯間ブラシやフロスを併用してください。
Q. インプラントは何年もちますか?
A. 一律に何年とは申し上げられません。清掃状態、定期受診の継続、喫煙の有無、糖尿病などの全身状態、噛み合わせの力で変わります。長く使われている方に共通しているのは、定期受診を続けておられることです。
Q. 保証を受けるための条件は何ですか?
A. 半年に一度のメンテナンスを継続して受診いただくことが条件です。治療後10年以内はインプラント本体の不具合による再手術・代替治療の費用をいただかず、11年目以降は30%の部分保証となります。
Q. 他院で入れたインプラントのメンテナンスもお願いできますか?
A. ご相談ください。使用されているインプラントの種類や部品によって対応できる範囲が変わりますので、治療を受けた医院の資料をお持ちいただけると、より正確にご説明できます。
まとめ
- インプラントを失う主な原因はインプラント周囲炎。虫歯ではありません
- 歯根膜がないため痛みが出にくく、気づいたときには骨の吸収が進んでいることがあります
- 毎日の清掃は「人工歯と歯ぐきの境目」を狙う
- 半年に一度のメンテナンスで、溝の深さ・骨の高さ・ネジ・噛み合わせを確認する
- 喫煙と就寝中の力への対処も、長く使うための要素です
インプラントは、入れたあとの過ごし方で寿命が変わる治療です。気になるサインがあれば、次の予約を待たずにご相談ください。

監修:八木 龍
聖護院やぎ歯科・矯正歯科 院長
OSSTEM IMPLANT 公認ディレクター / 国際口腔インプラント学会 所属 / 抜歯即時埋入・審美領域のインプラントに対応 / 全国の歯科医師向けにインプラント講師
広島大学歯学部を卒業後、大阪市の歯科医院インプラントセンターで副院長を務め、2020年に聖護院やぎ歯科・矯正歯科を開院。抜歯即時埋入や審美領域の難症例を含むインプラント治療に取り組み、診査・診断にもとづいて、身体的・経済的なご負担に配慮した治療計画を大切にしています。




